『この世界の片隅に』‐広島・原爆の日に寄せて‐
今年も8月6日がやってきた。64年前の今日、8時15分、世界で初めての原子爆弾が広島に投下された。この日を忘れてはいけない、「どんな言葉を使っても言い尽くせない被爆者の苦しみ(今年の平和宣言より)」をそれでも想像して、ノー モア ヒロシマ、ノー モア ナガサキと胸に刻まなければならないと毎年思う。
私はたいした知識もない能天気な平和主義者かもしれないが、たとえ理論武装できなくても、戦争はいやだ、核兵器はいらないと言うことは大事だと思っている。
さて、この日に寄せてぜひ紹介したいのが、こうの史代『この世界の片隅に』である。
- 作者: こうの史代
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/01/12
- メディア: コミック
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戦時中の広島、すずという娘が軍港のある呉に嫁ぐ。義父母、出戻りの小姑と姪、そして夫との新しい生活が始まり、抜けていてドジなすずは何かとやらかしながら日常を送っていく(ただしすずは大変絵心があり、そのことが作中効果的に使われている)。
物語はきっちり時系列で進み、戦況は悪化、生活も苦しくなる。描かれているのも隣組だとか配給だとか竹槍訓練だとか、まさに戦時下という内容なのだが、このマンガがすごいのは、それらを当時の日常生活として描ききっていることだ。今を生きる我々はどうしても「やっぱり戦時中は悲惨だなあ」という目で見てしまうが、その時代を生きていれば、そこには笑いも喜びも幸せもあったはずだ。それがリアルな戦中であろう。そのことを言葉でくどくど言わず、マンガ表現だけで伝えている。
だからこそ、すずやその周りの人々が、当時「この世界の片隅に」本当にいた人たちなのだと感じる。「この世界の片隅に」生きているという意味では、私たちとなんら変わらない。だからこそ、物語の中で昭和20年8月6日が近付くのが辛い。
もちろんこの物語の中でも、あまりに理不尽で悲しい出来事は起こる。しかしあまりにリアルすぎて、安易に泣いてはいけないという気持ちにさせられる。辛い記憶を抱えて、それでも主人公たちはやっぱりこれからも日常を生きていくのだと思うと、簡単に涙を流すことが憚られるのだ。
そして、このマンガは伏線がすごい。脇役等も含めてものすごい伏線が張ってあり、それらが見事に絡まり合って、(安直ないいかただが)人生の機微というか、人が生きていくってこういうことなんだろうな、と考えさせられる。
戦争が悲惨だとか、命が大事とか、そういうことは描かれていない。でも「戦争ってどんなものなのか」という問いに、本当に雄弁に答えているような気がするマンガだった。
(ただし、これを子どもに何の予備知識もなく読ませてもよく分からないと思う。せめて教科書レベル+αの知識がないと楽しめないのでは)
…「すごくよかったんだよ!」という思いが先走って、大変分かりにくい説明になっているのが心苦しいが、ぜひ一読を。そして読むときは3冊一気に。伏線や構造がけっこう複雑で、作者の意図を堪能するには集中が必要かと。
- 作者: こうの史代
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- 作者: こうの史代
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- 作者: こうの史代
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